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鬱(うつ)

56歳男性。奥様に付き添われて2時間もかかる遠方から来院されました。昭和60年に鬱病を発病。数年前に家業を息子さんに委譲し、現在は無職です。

睡眠薬6種類12錠、抗不安薬8錠を飲んでも夜中に何回も目が覚め、うつらうつら・・・。そして、明け方4時頃になると目が覚めてしまい、「全く眠った気がしない」。その他の訴えは、
体が怠く、日中、何もする気が起きない
食欲が無く、胃がもたれる
下痢が続いていて過敏性腸症候群と診断を受けている
小便がやたらと近い
両膝が痛く、常にサポーターをしている
4〜5年前から頚が右へ傾くようになり、定期的に注射をしている(>斜頚との診断)

抗鬱薬は12錠服用しているとのことでした。


まず、“気分の落ち込み” に対して足の陽明胃経の伏兎穴と三里穴を補い、次に、不安を取り除く為に足の少陰腎経の照海穴(右のみ)、陰谷穴(左のみ)を瀉し、両側の膝の上4横指の無名穴を補いました。

腹診により、腎経と肝経のバランスが大きく崩れていることを確認。腎経は「恐れ」と、肝経は「怒り」と深い関係があります。問診等から「恐れ」の感情を自覚していることが明らかだったので、この方の“自覚していない持続する感情”は「怒り」とし、足の厥陰肝経の行間穴(右のみ)、曲泉穴(左のみ)を瀉し、陰包穴を補うことで肝経の調整を行いました。

そして、不眠に対しては足の太陽膀胱経の殷門穴(左のみ)を瀉法。食欲不振、胃のもたれ感に対しては足の陽明胃経の三里穴と足の太陰脾経の三陰交穴を補いますが、すでに三里穴は補っているのでここでは三陰交穴のみを補いました。下痢に対しては足の陽明胃経の陷谷穴を瀉し、頻尿には足の太陽膀胱経と手の少陰心経をもって対処。斜頚には足の少陽胆経をもって対処しました。

この方の訴えていた両膝の痛みは鬱状態を改善することで緩解・治癒すると考えられたので膝痛に対する調整は特に行っていません。


【治療開始から9日目・治療回数4回】
  奥様の付き添いもなく、お一人で来院。「朝の7時までぐっすり眠れてスッキリし、昨日あたりから下痢がよくなってきました」とのこと。

【治療開始から24日目・治療回数7回】
  一週間ほど前から鬱状態が初診時と同じぐらいに戻ってしまい、「今朝からは下痢になった」とのこと。

【治療開始から49日目・治療回数12回】
  「徐々に眠れるようになり、起床時の気分はまあまあ」。下痢も治まってきました。

【治療開始から63日目・治療回数15回】
「白目が赤いので眼科へ通院している」とのこと。3日前から鬱状態が強くなりだしたそうで、この時は、胃のもたれ、ふらつきを訴えていました。

【治療開始から143日目・治療回数16回】
前回の治療から80日ぶりの来院。白目の充血は近くの眼科では改善しなかった為、紹介された医大付属病院の眼科へ。免疫異常との診断。

「相変わらず下痢が続いていて食欲もない」とのこと。その他、「眠りが浅く、朝早く目が覚めてしまう」、「気力がない」など初診時と同じ状態のようです。その他には、背中から頚、顎、鼻翼、額に吹き出物がひどいのが目に付きます。

初診時と同じ治療をした上で、白目の充血の改善と、見るからにひどい吹き出物を抑える為に手の太陰肺経の侠白穴、手の少陽三焦経の臑会穴、手の太陽小腸経の肩貞穴を補いました。

【治療開始から157日目・治療回数20回】
「気分が少し落ち着いてきて食欲も出てきた。便通も正常になり、体の調子が上向きになってきているのを感じる」とのこと。白目の赤さは残っており、若干改善された程度です。

【治療開始から179日目・治療回数27回】
「体調は良く、朝までぐっすり眠れる。倦怠感もなく、昨夜は姪のスナックへ行ってきた」とのこと。食欲もあり、胃のもたれ感もなく、下痢も落ち着いています。右へ傾いていた頚が治ってきたので「最近は注射をしていない」。小便も遠くなり、膝の痛みも消失。吹き出物も大分無くなっています。白目の充血も左側はほぼ治っており、右目が少し赤い程度まで改善しました。

睡眠薬は5錠、抗不安薬は4錠、抗鬱薬は6錠を服用。長い患いの為か薬は精神科医に相談することもなく自分の裁量で加減をしているようです。

現在まで鬱の状態は改善・悪化を繰り返しており、今後の治療の展望は楽観を許しません。しかし、愁訴は改善してきていることから、新たな症状が現れた時に適切に対処していくことで不安感を取り除き、“気分の落ち込み”を抑えることは十分に可能です。

愁訴を改善しつつ、こまめに気分の調整を行っていくことで、経脈の指向性を取り戻し、それを維持できる体質へと変化させることで鬱病は克服出来るものと考えています。


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