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鬱(うつ)

抑鬱状態・鬱状態の精神症状の基調となっているものは、憂鬱な・沈んだ・いやな・暗い気分です。
憂鬱な気分 何事も鬱陶しく、外出や人に会うのが苦痛となり、頭が回転せず、何も考えられなくなります。
沈んだ気分 普段の元気がなくなり、疲労感、倦怠感に陥り、性欲(性機能)が減退し、食欲不振になり(反対に食欲旺盛になることもある)、体重が低下し(反対に増加することもある)、これまで楽しかったことに興味や喜びが感じられなくなり、好きだった酒が飲みたくなくなる等の嗜好品に変化が見られ、嘔吐や目眩を生じ、眠りが浅く朝早く目が覚めてしまう、あるいは、朝目が覚めないなどの睡眠障害が見られるようになります。
いやな気分 朝起きてしばらくの時間帯が最悪で、夕方から夜にかけていくらか楽になる「日内変動」がみられ、何となく気分が悪い、気分が滅入るようになり、集中力に欠け、何をするにも億劫となりなかなか仕事や家事に取りかかれず、始めるまでにかなりの決断と時間を要する「腰を上げるまでの躊躇い」がみられます。
暗い気分 いやなことばかり考えて悲観的となり、自殺を考え、「何も出来ない」と自信喪失・劣等感に陥り、「周囲に迷惑をかけているのでは」と罪悪感を抱くようになります。

現代医学では、抑鬱状態・鬱状態が顕著であれば「鬱病」と診断します。鬱病の原因は確定的には分かっていませんが、素質・性格・ストレス・身体的疾患・薬物などの要因が重なり合って起こると考えられています。

病理学的には、脳内の働きをコントロールする神経伝達物質であるセロトニンとノルアドレナリンが一時的、または、恒常的に働きが落ちている為だという考え方から、薬物療法として三環系抗鬱薬・四環系抗鬱薬以外に、最近では選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が抗鬱薬の中心となっています。

鬱病は身体にもあらゆる症状が現れます。しかし、脳という身体の一部分の故障が諸症状を引き起こしているという認識に立つ現代医学の対処法は、抗鬱薬が中心で、他に、抗不安薬(脳内物質のギャバの働きを増やし、ヒスタミンの働きを抑えて不安を取り除く)や、睡眠薬が常用されています。

また、鬱病は諸要因が重なり合って起こることから、「心身の休息」、「精神・心理療法」が重要視されています。


鍼灸医学では、抑鬱状態・鬱状態の精神症状を気分障害、いわゆる“気分の落ち込み”として捉えます。その気分の落ち込みによって生じた諸症状だけをもって鬱病とすることはなく、鬱病かどうかの判断は、持続する無自覚な感情の有無によって行います。

ただ、気分障害は心身に多大な影響を与えているのは事実ですので、持続する無自覚な感情が無かったとしても、
“気分の落ち込み”を改善することは重要です。気分障害によって生じた諸症状は、自覚されない感情と絡まって心の病として深刻で決定的なものとなるからです。

感情は経脈が不安定な状態に発生しますが、通常は安定した状態に戻ろうとする指向性が働く為、感情が長時間に渡って持続することはありません。不安定な状態から安定した状態へ経脈が揺れ動くのは、健全な機能(指向性)が働く為ですので、その感情は突発的・単発的で自覚されるものです。

しかし、何らかの理由で安定した状態へ戻ろうとする指向性が衰退すると、前の感情が残照として消えないうちにまた同じ感情が生じるといったように、それは持続的となり、健全性の喪失は無自覚なものとなります。


鍼灸医学に於ける治療は、まず気分障害を調整することを第一とします。 気分が落ち込むと必然的に足の陽明胃経の足の三里穴と伏兎穴が虚すのでこれらの穴を補い、次に、不安を取り除く為に足の少陰腎経を調整します。その上で、患者さんが自覚していない持続する感情を探り当て、対処します。

感情はそれぞれの経脈と関連が深く、例えば、怒りの感情であれば足の厥陰肝経を調整することになります。そして、身体の症状、いわゆる愁訴を取り除く為の治療を行います。

治療の手順としては 【気分の調整】 → 【感情の調整】 → 【愁訴の改善】 ということになりますが、第三番目の愁訴が改善されなければ、経脈の調整をすることで気分・感情を整えても鬱病が快方に向かわないのが実情です。ですから、心から身体へ、身体から心へと相通じるものがあると考えている鍼灸医学では、例えば、下痢が続くとすれば、それは心の下痢として捉えて治療にあたります。

鬱病が脳内の伝達物質の不調であったにしても、心身を治療することによってその不調は是正されるものなのです。それは、脳卒中(脳梗塞・脳出血・脳血栓)の後遺症をリハビリによって脳内を改善させることと、ある意味で通じています。


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